介護甲子園
第八回介護甲子園
コラム&トピックス

書いた人:日本介護協会

Web限定緊急対談 千葉市長 熊谷俊人×左敬真

「第八回介護甲子園セミファイナル大会」が、9月13日・14日の2日間で幕張メッセにて開催。介護甲子園にとっても初の試みとなる本大会は、介護・医療・福祉の展示会「ナーシング ケア 東京」との共催です。

今回、これを記念して、幕張メッセのある千葉市の熊谷俊人市長と当協会理事長・左敬真との対談が実現しました。熊谷市長といえば、革新的な施策で千葉市を導く意欲にあふれた市長として注目を集めています。介護人材問題について、また本大会の意義についても話し合いました。

 

現在、日本介護協会で、介護甲子園というイベントを開催しております。今年8回目を迎えますが、介護甲子園に触れることで介護について広く知っていただきたい、さらに、介護業界に対しての雇用をより生みつつ、離職率の改善も図っていきたいという趣旨で、1年に1回、開催しています。最優秀賞を決めるという名目はありますが、それよりも全国で輝いている介護職の方々の姿を見ていただくことで、この業界に憧れを持ってもらうことを目的としております。今回、9月に千葉市の幕張メッセで30事業所からファイナリストが選ばれるというタイミングですので、このような機会をいただきました。市長には、介護業界へ期待すること、千葉市の介護に対する取り組みなど、お話をお聞かせいただければと思います。

 

市長

そうですね。介護にまつわる課題は、おそらくどこも基本的には同じだと思います。人材不足など色々な課題がありますね。ただ、千葉市は施設を経営されている方々、団体との関係は比較的良好だと思うんです。かなり頻繁に意見交換をさせていただいていますし、一緒にここまで作り上げてきたんだという想いを持っています。やはり話をさせていただくことが多いのは、人材不足の問題でして。我々は今、教育委員会とも話をして、小中学校の段階からいかに介護の仕事に触れてもらうかということを意識していきたいと思っています。私もよく保護者の方々、市民の方と話をするのですが、今はどうしても親御さんの意向がお子様の就職にかなり影響を与えています。お子様が介護の道に進むという選択肢を考えていくには、本人だけでなく、親御さんの理解も必要になってくるだろうと思っておりますので、やっぱり小中学校の段階から、まず触れることでゆっくりとキャリアを考えていただけないかな、と。

 

キャリアとしての介護職、という理解がまだ不足しているということですね。福祉系の大学を出ても福祉の仕事に就かない方が半分くらいいるという話も聞きます。

 

市長

実は、千葉市は人口に対しての大学の数が、首都圏の政令指定都市で一番多いのです。特に福祉系の大学も多く、介護の人材の供給源となる教育機関もたくさんあるはずですので。私の今の意識は、とにかく介護に触れる人達を増やす、ということが一番かなと思っています。

年々、業界の皆さんと会うたびに、人材不足の声が深刻になってきていると感じます。

いよいよもう、施設をオープンできないという段階にまで来ているようです。市で介護施設開設の公募を行っても、決定した後で人材不足を理由に辞退されるというパターンが本当に出始めてきて。いよいよ来るところまで来たな、という感じですね。

 

これは新卒採用で話していることなのですが、「日本の経済がこれからシュリンクするなかで、市場が拡大する『介護・医療』には成長のチャンスがある。皆さんが成長したいならば、介護の業界はとても良いよ』と言っているんですね。学生さんたちの話によると、介護の勉強をしていても「ちょっと外で仕事してから、興味があったら介護に戻ってくればいい」という考えの先生方もいる、と言っていました。まだそういう部分では、学生さん達に本当の興味付けができていないのかもしれません。

まさに今回、幕張メッセでやりたいのは、学生さんたちに来ていただいて、彼らに対してまずは介護ってどんなことをやっているのかというのを見てもらう。そして、一概に介護というのは「=おむつ交換」ではなくて、そういった介助を通じて彼らは何を手に入れていくのかということを知ってほしい。

 

市長

拡大する業界であることは間違いないと思うんです。世界各地にある千葉市の姉妹都市のひとつに中国の都市があるのですが、ここ2、3年は中国の市長や幹部に会うと日本の高齢化への対応についてよく訊かれます。ですから日本の高齢化というのはやはり先進的だし、それに伴う介護保険を含めたシステム、制度面、業界みたいなものを構築してきた実績があるわけです。そして今や中国も含めた先進都市の中で、ある種ロールモデルとして見られているというのは、もうちょっとポジティブに評価してもいいのかなと思うんですよね。向こうは我々に学ぼうとしているので、そういう先進、先駆的な業界であるというのは、イメージとしては大事なことだと思うんです。需要規模も当然ながら拡大しているわけで。

 

今回共催される展示会でも、海外の方達が多く来られるようです。特に多いのは中国。やはり日本の介護は世界で一番進んでいるという印象がありますから、それを学びに来よう、良い製品を見ようという方が多いです。

 

市長

彼らは、事前にかなり勉強しているなと感じます。制度面の話から、地域の助け合いをそこに入れ込んでいく部分ですとか、そういうところまで細かく質問してきますね。行政側でも、国レベルでの制度設計の議論はできると思います。しかし、各自治体でやっている地域レベルでの介護と医療の在宅の作り方などはなかなか書物で勉強できることではありません。中国の都市幹部も、そこを中央からの宿題として課されているようで、みんな模索している。

 

なおさら、僕たちは介護のノウハウを輸出できる。もっと言えば、介護の人材がここから10年、20年としっかり自国の中でノウハウを手に入れて、外に対して「発信源」となる人材になっていくのかなと思っています。

今回の介護甲子園は、7,000以上のエントリーから選ばれた30事業所が7分間、プレゼンテーションで自分たちの想いを伝えていき、観客の投票でファイナリストが選ばれるというものになっています。まさに業界の「発信源」となるセミファイナルの会場が幕張メッセということで、是非市長とお話ししてみたいと。

 

市長

我々としても、幕張の地にこうやって介護に情熱を持った方々が集まってくれるのはありがたいです。その方々にぜひ、千葉市の介護施設に来てもらったほうが良いですよね。現場を見て、さらに何ができるのかというのを施設の方々とディスカッションしてもらう。こんなことができるんじゃないか、あんなことができるんじゃないか、みたいなことを話し合ってもらえたら嬉しいです。

 

まだ全体のエントリー数は7,000事業所しかないので、千葉のエントリーもまだまだ少ない状況です。我々のPR不足もあるのですが、まだまだ介護甲子園を伝えきれていないところがあります。せっかく地元の幕張メッセが会場ですので、これを機会に千葉の事業者の方々にも介護甲子園を知っていただけたらと思います。

 

市長

我々も介護離職防止という観点から、「介護甲子園」をひとつの研修の機会だということで積極的に介護事業所に伝えていきたいです。どうしても何かを学ぶ、具体的なスキルや知識を得るというのが研修だと思われがちですが、なにより「変わるきっかけ」が得られるような研修が重要だと思っています。何かのスキルを学ぶかどうかではなく、参加すれば、その人なりの変化を持って静かに変わっていく。すぐに変化は出なくても、静かに思いが変わっていくなかで、結果的に1年2年、トータルで見たらスキルアップに繋がっていく、というケースもあると思います。

 

1年に1回、この介護甲子園にエントリーすることを目的に、年間のキャリア設計をしたり、勉強会を組んだりしている事業所もあります。そういう部分では、介護甲子園の取り組みが事業所改善に貢献できているのかな、と思います。

これからの30年、40年で、介護はインフラ業として育っていきます。それを担っていく同世代、次世代の介護職について応援のメッセージをいただけると嬉しいです。

 

市長

やはり介護はなくてはならない仕事だと思います。人間の生死を考えたときに、最期をどう過ごすかというのは、ものすごく大事だと思うんです。一人ひとりの生きてきた流れのなかで、価値観がそれぞれあって、その人達にとって、ご家族にとって、納得のいく最終ステージの部分ですよね。だから、そこに関わることで、さまざまな人生観を得る。海外の多くの国だと「聖なる仕事」だと言われている世界ですし、素晴らしい仕事だと思います。さきほど「インフラ」とおっしゃいましたけども、まさに介護は基盤の部分なので、私たち行政としても国と一緒になりながら、さらに環境を良くしていかなければならないと思っています。介護職の方々には、時代をリードしていくような存在として、さらには日本だけでなく世界をリードする存在として活躍してほしいなと思います。

 

最高の言葉をありがとうございます。

 

市長

まず私たちが市民に伝えていかなければならないのは、早めに介護について考えていくということだと思うんですね。まさに私たちの世代が、親はどうしたいのかということを、親族も交えて話し合って、準備してほしい。必要に迫られてから突然介護に携わるのは、本当に大変なので。私もこの仕事をして分かりましたが、本当に人生そのもの、価値観に関わってくるので、私も兄弟や両親と話し合っています。兄弟の住む場所によって、できることとできないことがあること。そして、親にどうありたいかというのも聞いておかなければならない。

 

一億総活躍の時代に、現役世代が親の介護に時間をとられてしまうのはやはりよくない。日本経済全体を回す、子育ての優先順位を上げていくことが重要だと僕たちも思っているんです。市長のおっしゃった部分は、行政だけでなく私たち介護事業者ももっとPRしなければいけないと思います。

 

市長

上手く業界を横断してやっていけると良いですよね。期待しています。

 

ありがとうございました。